横浜地方裁判所川崎支部 昭和55年(ワ)518号 判決 1984年6月27日
原告
シャンボール読売ランド前管理組合
右代表者
桜井誠一
右訴訟代理人
久保田康史
同
川端和治
被告
小島順
右訴訟代理人
岡邦俊
小林克典
主文
被告は原告に対し別紙目録一の1記載の土地のうち別紙図面(一)のイロハニイの各点を順次結ぶ直線によつて囲まれた位置に設置してある冷房屋外機及び同目録二記載の建物の東南側外壁のうち別紙図面(二)のホヘトチホの各点を順次結ぶ直線によつて囲まれた位置に設置してある冷房屋外機用配管を撤去せよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決第一項は仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
主文第一、二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一請求原因
1 原告、被告等
(一) 「シャンボール読売ランド前」(以下本件団地という)は別紙目録一の1ないし4記載の土地(以下あわせて団地敷地といい、個別に本件1の土地等という)を敷地とする共同住宅団地であつて、団地内には複数の共同住宅用建物があり、八五名の者が団地内の区分建物を所有し、かつ、右区分建物所有者全員がその区分所有する建物の面積に比例する持分割合により団地敷地を共有している。
(二) 原告は、本件団地の区分所有者全員で構成された組合で、建物の区分所有等に関する法律(以下区分所有法という)、団地敷地所有権、及び、シャンボール読売ランド前管理組合規約(以下原告組合規約という)に基づき本件団地内の建物、団地敷地、及び、附属施設等の共同部分の維持管理等の業務を行つているものである。
(三) 被告は、本件団地内建物のうち別紙目録記載の建物(以下本件建物という)の二階に位置する区分建物二〇四号室(以下被告建物という)の区分所有権の九分の八の共有持分及び右持分に相応する団地敷地の共有持分を有する原告組合員である。
2 被告の行為等
(一) 被告は、昭和五四年六月二二日本件1の土地のうち本件建物北東に接する別紙図面(一)のイロハニイの各点を順次結ぶ直線によつて囲まれた範囲内の位置(以下本件設置場所という)に冷房屋外機(ダイキンPAC・H17J、以下本件冷房屋外機という)を設置し、本件建物の東南側外壁壁面のうち別紙図面(二)のホヘトチホの各点を順次結ぶ直線によつて囲まれた範囲内の位置(以下本件壁面という)に五ないし六メートルの長さの冷房機用配管二本を壁面一二ヶ所を止金具で固定して設置した。
(二) 本件壁面のある外壁及び本件設置場所はいずれも原告組合員全員の共有であり、かつ、区分所有法及び原告組合規約にいう共用部分であつて、特定人のための専用使用権は設定されておらず、本件設置場所は被告が本件冷房屋外機を設置する以前は特段の使用目的の設定されていない団地内の空間地であつた。
3 原告組合規約
(一) 原告組合規約は、昭和五一年三月一五日各区分所有者が本件団地建物販売業者である株式会社大蔵屋(以下大蔵屋という)と区分建物売買契約締結の際同時に承諾し、昭和五一年一二月一二日順次規約に承認の署名をして合意したものであり、その後昭和五二年一二月一一日の第二回原告組合臨時総会で改正案が可決され、昭和五三年一月二六日から第一回改正後の規約(以下第二回改正後の規約と区別するときは旧規約という)が発効した。
(二) さらに、昭和五八年法律第五一号による区分所有法の改正にともない、昭和五九年三月一八日の第七回原告組合定期総会において改正の決議がなされ、同年四月一日から改正後の規約(以下旧規約と区別するときは新規約という)が発効した。
(三) 被告が本件冷房屋外機を設置した当時、原告組合規約によれば共用部分の使用等については次のように定められていた。
(1) 建物の共用部分及び外観あるいは敷地利用上の変更は組合員全員の合意で決する。(旧規約二一条)
(2) 全組合員の共同の利益にかかる基本的事項は総会の議決を得なければならない。(旧規約三五条、三四条)
(四) 右旧規約の規定は、次のとおり改正され新規約に引きつがれている。
(1) 団地内の建物の共用部分及びその外観又は敷地利用上の変更もしくは附属施設の変更は団地建物所有者の三分の二及び議決権総数の三分の二以上の多数による総会の決議で決する。(新規約一九条)
(2) 全組合員の共同の利益にかかる管理の基本的事項は総会における出席組合員の議決権の過半数の決議による。(新規約四二条、四三条)
4 被告の行為と原告組合規約、区分所有法
(一) 被告の本件冷房屋外機及び配管の設置は、原告組合規約にいう建物の共用部分及びその外観、敷地利用上の変更に該当する行為である。すなわち、まず区分所有法一三条(昭和五八年五月二一日法律第五一号による改正前の同法九条、以下改正前の同法を旧法という)によれば、共有者は共用部分を用法に従つて使用することができるものとされているところ、被告が本件冷房屋外機等の設置する以前の本件設置場所及び壁面は、前記のとおり個人に対する専用使用権及び特定の使用目的の設定されていない共用部分であり、空間地及び建物外壁として使用されていたものであるから、本件設置場所及び壁面の用法に従つた使用とは右の状態をそのままに使用することである。そして、ここに一共有者が本件冷房屋外機等のような容易に除去し得ない構造物を設置して長期間にわたり占有を続けることは、右特定人が共用部分に専用使用権の設定を受け、共用部分に特定の使用目的を定めたのと同様な結果がもたらされることになり、かつ、建物共用部分の外観に変更が生じることも明らかである。
(二) 仮に、本件冷房屋外機等の設置が原告組合規約にいう変更とまではいえないとしても、右のような設置を認めるか否かは全組合員の共同の利益にかかる(管理の)基本的事項に該当する。
5 よつて、原告は被告に対し、被告が原告組合総会の決議に基づかないで設置した本件冷房屋外機及び配管の撤去を求める。
二請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は、原告が「団地敷地所有権に基づいて」管理業務を行つている事実を争い、その余の事実は認める。
2 請求原因2の事実は、配管の位置を除き認める。配管の位置が本件建物の東南側壁面(設計図書上の東壁面)であることは認めるが、原告主張の図面(二)は本件建物の立面図ではない。
3 請求原因3の事実中(一)及び(三)の事実は認める。
4 請求原因4の主張は争う。
三請求原因4に対する被告の主張及び抗弁
1 本件冷房屋外機等の設置は、区分所有法一三条(旧法九条)にいう共用部分の用法に従つた使用であつて、原告組合規約、区分所有法にいう共用部分等の変更又は全組合員の共同の利益にかかる管理の基本的事項には該当しない。
すなわち、本件冷房屋外機を設置した場所は本件建物の北東側壁面に接するいわゆる軒内ともいうべき場所であり、壁面の内側は半地下のトランクルームで人が居住する部分ではなく、団地全体の建物の配置状態からみても本件建物裏の空地にすぎず、他の棟の区分所有者らにとつては勿論、本件建物所有者らにとつても通路や子供の遊び場としてさえ利用できない土地である。本来このような場所は空地のまま維持することを当初の設計の意図とするものではなく、長い生活期間において私的生活行為の表出を吸収したり、数軒で共用する施設を増設したりできる調整区域ともいうべき場所である。ところで、本件建物で生活する上で各個室に冷房機を設置することは快適な共同生活を送るために必要不可欠であるところ、団地内の建物の配置等に照らすと、冷房機の機種としてはウインドー型よりもセパレート型の方が排気、運転音等により団地住民相互の蒙る被害が少いが、セパレート型の冷房機を本件建物の北東側の個室に設置する場合、屋外機を南西側テラスに設置することは技術的に著しく困難であるから、このような場合こそまさに右調整区域を利用すべき場合である。そして、本件冷房屋外機の設置方法は、地面においたコンクリートブロック上にのせてあるだけで固定具の使用はなく、占有面積は0.2平方メートル弱にすぎず、本件冷房屋外機の設置によつて団地の敷地の外観に変更は生じていないし、他の区分所有者らに何らの損害を与えるものでもない。これらの事実を総合すると、被告の本件冷房屋外機の設置による本件設置場所の使用はまさに共用部分の用法に従つた使用である。又、配管のための本件壁面の使用については、冷房屋外機を設置するためには通常配管のための壁面の使用を伴うものであることに照らすと、本件壁面の用法について独立に論ずる必要はないが、被告は本件配管の設置に際しては、その位置、配管被覆の色彩などにも十分な配慮をしているので、被告の配管によつて本件建物の外観が変更したともいえない。なお、配管を建物内部からひき出すためのスリーブについては、被告が本件冷房機設置のために壁面に穴をあけたものではなく、被告が昭和五一年三月一五日大蔵屋との間で被告建物の売買契約を締結した直後頃、将来の必要を考え、大蔵屋に対し設計変更として本件建物東南側壁面にスリーブを設置するよう申入れ、大蔵屋がこれを承諾して設置してあつたものを利用したにすぎない。
ちなみに、原告組合規約にいう共用部分の変更とは、民法二五一条、旧法一二条にいう変更と同義に解すべきであり、共用部分について全組合員の共同の権利の内容に著しい変化をもたらし、権利の目的の事実上及び法律上の処分と同視しうるほどの重大な変更に限定して解釈すべきである。
2 仮に、本件冷房屋外機等の設置が、共用部分の用法に従つた使用とはいえず、原告組合規約にいう共用部分の変更又は全組合員の共同の利益にかかる管理の基本的事項に形式上該当するとしても、共同住宅における管理規約は住民の共同生活を快適にするためのものであるから、その適用については形式的に違反しているか否かを問題にするのではなく、実質的に共同の利益が害されているかを判断して適用すべきところ、次のような諸事情を考慮すると、本件請求は権利の濫用であつて許されない。
すなわち、まず、前記のとおり、本件建物における冷房機の必要性は極めて強い(ことに被告は大学教授として騒音を避けて研究等をなす必要があり、家族にも音楽大学進学希望者、受験生など、冷房を必要とする者がいる)のに対し、前記のような本件設置場所の位置、性質、占有面積、冷房機の機種、被告の設置方法等に照らすと本件冷房屋外機等の設置は他の区分所有者に何ら実害を及ぼしていない。又、原告組合規約はもともと建物販売業者が作成したものであつて、団地居住者の意思が十分反映していないから、この規約に基づいて共有者の権利を制限することは慎重にしなければならない。さらに、被告は、本件冷房屋外機等の設置に先立ち、設置にもつとも利害関係の深い近隣の居住者らの意見をきいたが、積極的な反対はなかつた。
三抗弁に対する原告の認否
抗弁は争う。
第三 証拠<省略>
理由
一 原告、被告等
本件団地が団地敷地上の複数の棟の共同住宅用建物からなる共同住宅団地であつて、八五名の者が区分建物を所有し、右区分所有者らが原告主張のとおり団地敷地を共有している事実、原告が右区分所有者全員で構成される組合であつて、区分所有法及び原告組合規約に基づき団地内建物、団地敷地、及び附属施設等の共用部分の維持管理等の業務を行つている事実、及び被告が本件団地内の本件建物二階にある被告建物及び団地敷地について原告主張の共有持分を有する原告組合員である事実は、当事者間に争いがない。
二 被告の行為及び本件訴訟にいたる経緯
(一)被告が本件冷房機及び配管を原告主張のとおり設置した事実は配管の設置場所を除き、当事者間に争いがない。
配管の設置場所については、本件建物東南側外壁々面(設計図書上の東壁面)である事実は当事者間に争いがないが、原告は別紙図面(二)のホヘトチホの各点を順次結ぶ直線によつて囲まれた本件壁面であると主張するのに対し、被告は右図面は本件建物の立面図ではなく本件建物の東南側にある他の建物の立面図であると主張する。ところで、<証拠>によれば、本件団地内には本件建物と躯体の基本的構造を同じくする四棟の建物があるが、右図面はその四棟に共通の東立図面として作成されたものであり、本件建物については右図面北側の建物に接する土地が土盛されており、土地の形状が右図面と異つているが、本件建物を含む四棟の建物東南側壁面の基本的形状は右図面の表示と合致していると認められる。そして、本件壁面は明渡の目的範囲ではなく単に撤去すべき目的物の所在場所にすぎないから、その特定のための図面としては右図面程度の表示で足りるものというべきであり、<証拠>によれば、被告が配管を設置したのは本件壁面であると認められる。
(二)本件壁面のある外壁及び本件設置場所がいずれも原告組合員全員の共有であり、共用部分であつて、特定人のための専用使用権は設定されておらず、本件設置場所が従前特定の使用目的の定められていない空間地であつた事実は、当事者間に争いがない。
(三)そして以上の事実に<証拠>によれば、次の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
1 本件団地内の建物はいずれも大蔵屋が建築主として建築し、区分所有者らに販売したものであり、被告は昭和五一年三月一五日大蔵屋との間で当時は未完成であつた被告建物を買受ける契約をし、昭和五四年二月頃完成した右建物の引渡を受けて入居した。
2 ところで、本件団地内の区分建物については、大蔵屋の設計では南側のテラスに面する居室の壁面にのみ冷暖房機用スリーブが設置されていたが、被告は被告建物の売買契約に際し、大蔵屋との間で設計変更の合意をし、将来の冷暖房等の必要性を考慮して南側テラスに面していない各個室についても冷暖房機等に使用できるスリーブを設置した。
3 被告の家庭では大学教授である被告の在宅研究、現在音楽大学在学中の長女のピアノ演奏、長男の受験勉強等のため、南側テラスに面していない各個室にも冷房機を設置したいと考えるようになり、昭和五四年春頃から冷房機の機種、設置場所等を検討した結果、冷房機の機種としては個室の窓に設置するウインドー型よりは屋外機を設置するセパレート型の方が居室の住環境上も、騒音、排気等によつて近隣居住者に与える影響上も優れているとの結論に達した。そこで、さらにセパレート型の冷房機を設置するについて、屋外機を設置する場所として建物設計上も冷房屋外機の設置が予定されており、団地内の多くの区分所有者がその設置をしている南側テラスに北側個室の冷房機のための屋外機を設置することを検討したが、技術的にみて極めて困難であることが判明したため、団地全体の配置等からみて建物裏の空地ともいうべき場所で共用者全員のための特定の使用目的を設定して具体的利用をすることが比較的困難な場所であり、外観上もあまり目だたない場所であると考えた本件設置場所に冷房機用屋外機を設置することとし、原告組合には何らの申入れもせず、独自の判断で、前記のとおり予め設置してあつたスリーブを利用し、前記のとおり本件冷房屋外機等を設置した。
4 被告が本件冷房屋外機等を設置したことは、間もなく原告組合理事会の知るところとなり、理事会内部で検討した結果、理事会としては被告の行為は後記認定の原告組合規約(旧規約二一条)にいう建物共用部分、その外観及び敷地利用上の変更に該当し、組合員全員の合意なくしてはなし得ない行為であり、右合意を得ずに設置した行為は原告組合規約違反であるから被告に対し撤去を求めようとの結論に達した。そして、原告組合理事は被告に対し昭和五四年七月三日理事会の右見解をつげ、その年の夏のすぎる三ケ月後には撤去してほしいと申入れた。しかし、被告は右申入れに応じようとしなかつたため、以後、理事会と被告は直接あるいは大蔵屋の職員を間に立てるなどして交渉したが、被告の冷房屋外機等の設置が区分所有法にいう共用部分の用法に従つた使用であるとの被告と、右は用法に従つた使用ではなく、共用部分の変更であるとの理事会の見解は平行線をたどり歩みよることがなかつた。
5 そこで、昭和五五年三月二三日に開催された原告組合総会において、組合員に対しあらためて被告の右設置を承諾するか否かを書面で確認することが決議された。そして、右決議に従つて理事会が集めた組合員の書面による意見では六五名のうち被告の設置を承諾するもの一名、反対するもの六〇名であつた。理事会はさらにその後の方策について組合員のアンケートをとり、同年五月三一日の理事会で訴訟にふみ切るか否かを決するための臨時総会を開催することを決めた。この間理事会側と被告とは、それぞれ自己の見解を記載した書面を作成して各戸に配布した。
6 同年六月二二日に開催された原告組合臨時総会においては、被告の本件冷房屋外機等の設置は認めない、今後は訴訟を含め撤去のための努力をする、旨の決議がなされた。そして理事会においては右決議に沿つてその後もなお被告に対し任意撤去を求めたが、被告が応じなかつたため同年一〇月二日理事会において訴訟にふみ切ることを決め、同年一二月二七日本訴が提起されたものである。
7 本件団地内の区分所有者中には、区分建物テラス以外の共同部分にセパレート型の冷房屋外機を設置しているものはなく、被告の右設置当時区分建物北側個室から南側テラスまでテラスに面していない建物外壁に配管を設置しているものがあつたが理事会の勧告を受けて任意撤去した。又、団地敷地のうち専用使用権も、特別の使用目的も設定されていない土地に特定の個人のために本件冷房屋外機類似又はその他の構造物は設置されていない。
三 原告組合規約について
(一)原告組合規約が原告主張の経過で合意され、第一回改正が行われて旧規約が発効した事実は、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、原告主張のとおり新規約が発効した事実が認められる。
(二)そして、被告が本件冷房屋外機等を設置した当時の原告組合規約には(1)建物の共用部分及び外観あるいは敷地の利用上の変更は組合員全員の合意で決する(旧規約二一条)、(2)全組合員の共同の利益にかかる基本的事項は総会の議決を得なければならない(旧規約三五条、三四条)と規定されていた事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、(1)の変更については団地建物所有者の三分の二及び議決権総数の三分の二以上の多数による総会の決議で決する(新規約一九条)、(2)については全組合員の共同の利益にかかる管理の基本的事項は総会における出席組合員の議決権の過半数の決議による(新規約四二条、四三条)と改正されて新規約に引きつがれている事実が認められる。
四 被告の行為と原告組合規約、区分所有法
(一)区分所有法一三条(旧法九条)によれば、共有者は共用部分を用法に従つて使用することができるものとされているところ、前記のとおり被告が本件冷房機等を設置する以前の本件設置場所及び壁面は個人に対する専用使用権及び特定の使用目的の設定されていない共用部分であり、空間地及び工作物等の設置されていない建物外壁として使用されていたものであるから、本件設置場所及び壁面の用法に従つた使用とは右の状態を基本的に維持したまま使用することであると解するのが相当である。従つて、ここに既に認定した本件冷房機及び配管のように第三者が容易に除去し得ないような構造物を設置し継続して使用することは、共用部分の用法に従つた使用とはいえず、先に認定した原告組合規約にいう変更に該当するものというべきであり、少くとも、右設置を認めるか否かは組合員全員の共同の利益にかかる(管理の)基本的事項に該当するものということができる。
(二)被告は、本件設置場所はいわゆる軒内ともいうべき場所で、本来長い生活期間の間に私的生活行為の表出を吸収したり、共用する施設を増設したりできる調整区域ともいうべき場所であり、本件建物で生活するための冷房の必要性等を考慮すると、本件冷房屋外機を設置する行為はまさに本件設置場所の右調整機能を利用する場合であるから、被告の行為は本件設置場所の用法に従つた使用というべきであると主張する。そして、確かに本件設置場所は被告の主張するような調整的な機能を負わせるに適した土地であることは窺われなくはない。しかしながら、本件団地のような集合住宅団地にあつては多数共有者間の異なる生活上の要請をどのような順序で、どのような範囲、方法で認めるか等を共有者間で協議し、合意を得て使用するのでなければ、混乱や不公平が生ずるであろうことは容易に予想しうるところであるから、調整的機能を目的とする使用であるとしても、共有者の一人が独自の判断で現状を変えるような使用をなすことは用法に従つた使用とはいえないというべきである。
(三)又、被告は、原告組合規約にいう変更は民法二五一条、旧法一二条にいう変更と同義に解すべきであり、このように解した場合は、被告の行為は変更には該当しないと主張する。しかし、原告組合規約の変更を右のように解すべき十分な根拠はなく、原告組合規約は文言上外観とか敷地利用上の変更を含んでいることに照らすと、原告組合規約にいう変更は少くとも民法の変更より広く解すべきであり、被告の行為は右組合規約にいう変更に該当すると解するのが相当である(なお仮に変更に該当しないとしても共有者全員の共同の利益にかかる管理の基本的事項に該当することは既に認定したところである。)。
(四)従つて、被告が原告組合総会の何らの議決を得ずにした本件冷房屋外機等の設置は、原告組合規約に違反してなされたものであるから、原告は被告に対しその撤去を求めることができるものというべきである。
五 権利濫用について
被告は、本件冷房屋外機等の設置が原告組合規約違反であるとしても、原告組合規約を形式的に適用して撤去を求めることは権利の濫用であるとして縷々主張する。
しかし、これまでに認定した本件団地の性格、設置目的物、設置の場所、本件明渡にいたる経緯その他記録にあらわれた一切の事情を勘案すると被告の主張を考慮しても、本件撤去請求が権利の濫用ということはできない。
なお、被告は、本件設置行為によつては何らの実害を生じていないと主張するが、共用部分を用法に従つた使用以外の使用をすることは、それ自体他の共有者の利益を害しているものというべきである。又、被告は、原告組合規約は団地居住者の意思を十分反映していないから、この規約に基づいて居住者の権利を制限することは慎重でなければならないと主張するけれども、団地の共用部分の使用が用法に従つたものでなければならないことは、区分所有法の定めるところであり、この点について、原告組合規約がことさらに共有者の権利を制限したものではないことが明らかである。
さらに、被告は本件冷房屋外機等の設置に先立ち、近隣の居住者らの意見をきいたが積極的な反対はなかつたと主張し、<証拠>中には右主張に沿う部分があるが、右部分は、<証拠>及び先に認定した本件訴訟にいたる経緯に照らしたやすく措信できない。
六よつて、原告の請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(小田原満知子)
目録
一1 川崎市多摩区細山一丁目壱九六番壱
宅地 1299.39平方メートル
2 同所壱九六番四
宅地 821.01平方メートル
3 同所壱壱六番六六
宅地 4373.07平方メートル
4 同所壱壱六番八四
宅地 1031.44平方メートル
二 川崎市多摩区細山一丁目壱九六番地壱所在
鉄筋コンクリート造陸屋根四階建
壱階 89.34平方メートル
弐階 157.09平方メートル
三階 146.43平方メートル
四階 113.67平方メートル
(別紙図面(一)にc棟と表示されている位置にある建物)